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主任司祭のメッセージ Message from parish priest

『五分前の奇蹟』       司祭 加藤 鐵男

2021年10月05日|

八十九歳で帰天された女性の葬儀を依頼された。

いつもの通りご本人の経歴やエピソード、趣味などを聞かせていただき、説教の準備にかかる。御家族は、御主人と一男一女の四人だったと教えてくださった。娘、息子さんは信者だが、御主人は未信者だと聞かされた。御本人は、動機は不明だが五十歳の時の降誕祭に受洗しておられた。二人の子どもは幼児洗礼であった。

御本人は、御主人の理解のもとで教会活動にも熱心で「いつか、主人も信者になってくれれば」との希望を教会の信徒に漏らしていたと聞かされた。

コロナ禍での葬儀なので家族中心という遺族の御意向であった。通夜は厳かに終わり、翌日の葬儀になった。九時からの葬儀ミサだった。始まる十分前に準備の点検に聖堂に行くと、東京在住の娘さんが集まった親戚に挨拶をしておられた。ちょっと会釈をして香部屋に戻ろうとすると、娘さんから声をかけられ、昨夜父のエンディングノートを見ていたら、八十七歳なので勉強は無理なので臨終洗礼を受けて、パウロの洗礼名で葬式を教会にお願いしたいと書いてあったという話を聞かされた。「ああ、そうでしたか」と「わかりました。承りました」と答えて香部屋に戻った。祭服に着替えようと準備をしようと思った時に、「今では駄目なのだろうか」と、ふと思った。もしかしたらと聖堂の車椅子に座っておられるご主人に、娘さんからの話を伝えて「洗礼を受けませんか。亡くなられた奥さんも喜ぶと思います」と促すと、「はい、受けます」というではありませんか。これから洗礼式を行いますと娘さん息子さんに伝えて、葬儀の始まる五分前でしたが、洗礼を授けました。

葬儀ミサの説教の始めは、もちろんご主人の洗礼の話から始め、これで奥さんも安心し喜んで天国へ行かれたと思いますと皆さんに伝えました。

葬儀ミサ終了後に、娘さんから「奇跡です」と喜びの声がありました。三週間後、娘さんからお祈りのカードを送ってここから始めていますと伝えられた。

「彼らの働きを思って、心から愛し敬いなさい。互いに平和に過ごしなさい」(第一テサロニケの手紙 5章13節)。全ての人の平和が、イエスの望みであったことを、あらためて思い出された葬儀でした。


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